ミラノ・コルティナ冬季オリンピック。
スノーボード男子ハーフパイプで金メダルを取った戸塚優斗選手。
インタビュー記事を見ていて、
「あ、これバレエ・ダンスと同じだ」と思った瞬間があった。
昨日はターンが回れたのに、今日は回れない。
そんな経験はありませんか?
キーワードは、“勘を捨てる”。
天才でも「勘」でやっていた
戸塚選手は若い頃から「天才」と呼ばれ、数々の大会で優勝してきた選手。
それでも、平昌・北京オリンピックでは思うような結果が出なかった。
北京五輪の後、スノーボードを続けるか迷ったという。
そのときコーチに言われた言葉が、
「勘を捨てよう」
だったそうだ。
本人も振り返ってこう言っていた。
それまでは「勘で跳び、運で着地していた」と。
ここでいう“勘”とは、なんとなくうまくいった感覚のこと。
彼は才能があるからこそ「勘」に頼っていた部分があった。
そこで彼は、自分のジャンプ映像を何度も見直し、
・跳ぶ直前の重心
・腕の振り
・空中姿勢
・着地の角度
を細かく分解し、理詰めで再現できる形にしていった。
その結果が、今回の金メダル。
「なんとなく成功する」から
「いつでも再現できる」へ。
ここに、バレエやダンス上達のものすごく大きなヒントがあると思った。
ダンスも同じじゃない?
ダンスやバレエでも、こんなことはないだろうか。
昨日はなぜか回れた。
でも今日は全然回れない。
ありがちなのは「今日は調子が悪いのかな」で終わらせてしまうこと。
それが勘や運によるものだったら、舞台などの大事な場面で100%成功させるのは難しい。
半回転がやっとだった私
30歳でダンスを始めた私が、ジャズレッスンで初めてピルエット(ターン)をしてみたのは31歳くらいの時。
先生にやり方を教わり、言われた通りにやってみた。
でも、1回転どころか半回転がやっと。
1回転回るとよろけて、隣の人にぶつかりそうになる。
「今日は1回転までにしよう」と先生に止められた。
私は勘や運でできるタイプでは到底なかった。
正直、勘でできるようなセンスのある人がうらやましかった。
だから、選択肢はひとつだった。
ひたすら再現性を高める
バレエを本格的に始めたのは40歳のとき。
私が決めたのは、先生の言葉を一つも聞き流さないことだった。
もちろん最初から理解できたわけじゃない。
でも、私が師事した先生はすごかった。何度も繰り返し、言い方を変え、分解して、こちらの身体に届く形で“コツ”を渡してくれる。
だから私は、先生の言葉をそのまま「分かったつもり」で終わらせず、意味を細かく確かめて、身体に落とし込むことにした。
最初は分からなくても、別の言い方で言われた瞬間に、急に線がつながる。あの感覚を逃したくなかった。
たとえば——
「床を踏んで」
→ 足裏のどこ?
→ 母指球・小指球・かかと全体でしっかり踏む。土踏まずはあける。
「引き上げて」
→ お腹のどこを意識する?
→ おへその下から頸椎につなぎ、つむじまで一本で伸ばすように。
→ 骨盤の位置は?
→ まっすぐ。
「首を残して」
→ どこまで残す?
→ あごが肩にのるくらいのタイミングまで我慢して、そこで振り返る。
こうやって、言われたことを一つずつ、その時の自分の身体でできる限り再現して、体にしみこませるように確認した。
30歳からダンスを始めた私の身体は、いつだって発展途上。だからこそ「今できる最善」を積むしかなかった。
さらに、レッスンが終わったら必ず、バレエやダンスで習ったことを最低3つ思い出してメモに残す。
地味だけど、これを繰り返した。
私は勘に頼れなかった。だから、一つずつ積み上げるしかなかった。
近道はない。でも、その遠回りが、いちばん確実だった。
その結果、何年もかけて少しずつスキルが上がり、今ではピルエットやジャズターンを安定して2回転、調子が良いときは3回転回れる時もある。
昔は1回も回れなかったアチチュードターンもアラベスクターンも、今はきれいに1回転できるようになった。
これは才能じゃない。
身体にしみこませるまで反復して、再現性を上げてきた結果だと思っている。
大人は「理屈という武器」を持っている
子どもは感覚で覚える。
でも大人は、「理屈という武器」を持っている。
戸塚選手は、自分の動きを録画して何度も見ることで分解した。
それは自分で道を切り開くような、大変な作業だったと思う。
私たちは、バレエという長い歴史のある踊りを習っているので、
すでに先人たちが技術を分解していて、それを、先生から教えてもらうことができる。
これは、実はかなり恵まれている。自分で分解する必要がない。
だからこそレッスンのたびに「なんとなくうまくいった」で終わらせない。
・なぜ今日は回れたのか
・なぜ今日は失敗したのか
これについて、先生に教えてもらった、分解された言葉のなかで考える。
それを積み重ねれば、勘ではなく“再現性”になる。
そして、その積み上げが私は楽しかった。
昨日より少しだけ理解できる。
昨日より少しだけ安定する。
その積み重ねが、結果、ダンスを長く続けられていて、いまの自分を作っている。
今日からできること
「昨日はできたのに今日はできない」と思ったとき、
自分には才能がないからこの程度かも、と落ち込む前に、一度立ち止まって考えてみてほしい。
それは勘や運で、やっていないだろうか?
レッスンで聞いた先生の言葉を、流さずきちんと捉えてみよう。
先生はすでに分解して伝えてくれているはず。
できるようになるヒントを、たくさん言ってくれているはず。
聞いた言葉を、自分の身体で再現して、そして、それを繰り返し練習する。
それだけで再現性は高まっていく。
「なんとなくできた!」から「いつでもできる!」へ。
分解して、積み上げて、繰り返したものは裏切らないことを、戸塚選手が証明してくれた。


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